微熱

CoCo壱高くね

走れメロス (新潮文庫) 無料

メロスは激怒した そしてこの俺も大概にブチギレている 必ず、かのコンビニで謎にガチギレしてるカスを除かなければならぬと決意した メロスには政治がわからぬ 俺もあんまわからぬ 取り敢えず俺の話がしたいのでメロスのくだりは忘れてください

先日のことだ 入店の時点で既に明らかに不機嫌そうな老人がコンビニにノタノタ入って来て 俺が宅急便を発送しようと並んでいる所にlionel messiも驚きの華麗な割り込みカットインをキメた挙句「これ1箱!!!!!!」と煙草を指差し大声を出した まあ 急ぎの用事なんかないし別に良いか……と思って俺は一歩後ろに下がり順番を譲った訳なのだが 挙句年齢確認のボタンが出て来た時にlionel messiは「俺がガキに見えるのか」「何か悪い事したか」「何で俺が押さなくちゃ行けないんだ」と揉め始めた 迷惑界の最多得点王か? 文章では伝えるのが限界だが勿論ドンキで大量に売ってる黄色い鶏位には大声である 店員さんは立場上謝るしか無かった ブツブツ怒り狂いながら帰って行って 完全にセブンイレブンに幾秒かの沈黙が訪れた なんだか居た堪れなくなって 何故か俺が小さな声で すみません と言ってしまった 側から見たら俺がヤバジジイを統括する責任者の様に見えてしまっていただろう それにしても本当にどうやって「買いたいものをレジに持っていき、お金を払い店を出る」という事だけでそこまで物事を面倒にできるのだろうかと思うことが多々ある

と言っても俺はコンビニ店員ではないどころか先日遂にバイト先に退職願を叩き付けており 大学も行ってないし バンドも大して活動していない全く訳の分からん奴 ──── 強いて言うなら「コンビニでガチギレしてるカスにガチギレしてるカス」なのであるが こういう場面があると 明け透けに自由な奴は良いなあ と 自分が辛くなる事がある 勿論 ああいう風になりたいって訳じゃ無いけど 例えば 街角の少し雰囲気の良い飲食店に勇気を出して入ったのは良いが自分が一番食べたい物じゃなくて店員さんにお薦めと言われたものを食べるしかなかったり アソートピノを何人かで食べる時顔色伺ってアーモンドを選んだり 鍋をする時も肉を取らずシメジばっか取ったり(最悪なことに思い当たる出来事が食べ物関連しかない)沈黙を恐れたり 人の顔を伺い続け そんな事ばかりだから 思い悩むことはないだろうあの老人には羨望の眼差しすら向けている きっと奴なら無言で飲食店の椅子に座り1番量が多いメニューを即座に注文出来るだろうしアソートピノは間違い無く多めに取るだろうし鍋は肉しか食べないだろう 傷付きたくなかったり 本当はそうしたいが譲っておいた方が面倒な衝突を避けられる とか そんな 弱さから来る考えでシメジばっか取るのはきっと優しさでは無いだろうなあとか色々考えてしまい コンビニで宅急便を発送しようとしただけなのになんだか本当にどうしようもない気持ちになった マジで誰か抱きしめてください 俺が最近クソ気に入ってる帽子あげるので……



「たまに春が来ることが信じられなくなる。こんだけ突然寒くなったりすると。それでも来なかった年はなかったはずだから色々と大丈夫だと思う。」という 一昨年自分が書いた日記の一節にセルフで励まされたりした 色々なものを諦めて俺は今日もなんとかやっています そして暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みはかなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
 どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
 ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。
(古伝説と、シルレルの詩から。)




底本:「太宰治全集3」ちくま文庫筑摩書房
   1988(昭和63)年10月25日初版発行
   1998(平成10)年6月15日第2刷
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
   1975(昭和50)年6月~1976(昭和51)年6月
入力:金川一之
校正:高橋美奈子
2000年12月4日公開
2011年1月17日修正